1996年、りゅうりゅうは肺の気胸に襲われた……

気胸物語I

〜降臨編〜

 8月23日、その日俺はいつもどおりの退屈な一日を過ごし、いつもどおりシャワーを浴びていた。
…?体を洗っている時、俺は左胸に妙な違和感を覚えた。なんかおかしい。胸が痛い。まぁ大した痛さではないが。
 しかし、時間が経つにつれ、その痛さは増していった。不安になった俺は早々にシャワーを終え、風呂場から出た。
その後もだんだん胸は痛くなり、次第に息苦しくなっていった。俺はうつぶせになった。こうしていると少しは楽だからだ。
 「なんか息苦しい…」 俺は母にそう訴えた。しかし母は、「そんなん母さんもよくなるって」と軽くあしらわれた。そうか、よくなるのか…そんなことを思いつつ、さらに時間は過ぎた。息苦しさは治まるごとろか、逆にひどくなってゆく。リビングの真ん中でうつ伏せでしんどそうに寝ているのに、俺の異変に気づいてくれる奴は一人もいなかった…
 「寝てくる…」 俺はそう言い残し、自分の部屋へうつ伏せになりながらも歩いていった。
 しばらくベッドで寝ていたが、息苦しさは増すばかり。俺は母を説得し、救急病院へ向かった。

 「気胸ですねぇ。」 医者はレントゲンを見ながら、こともなげにそう言った。左の肺がしぼんでいるらしい。「場合によっては体に管を入れ、肺から漏れた空気を吸い出したりすることもあります。」 管、って…どうやっていれるんだ…?
 俺は救急車で救急病院から普通の病院に移された。救急車に乗るのは初めてだった。「そんな大げさな」などと思いつつ、俺は運ばれた。
 病院に着いた。なんだか様子がおかしい。みんな手術着のような服を着ている。担架からベッドに移された。俺の周りを数人の医者や看護婦が取り巻いた。「これから管を入れます。」 !?なんだって!?それは『場合によっては』じゃなかったのか!?そんな俺の気持ちとは関係無く、着々と『管入れ』の準備は進められていった。
 左胸に麻酔がかけられた。そしてメスが入る。「痛かったら痛いって言ってね。」と言われたが、全く痛くない。管入れるって言ってもたいしたことないな。ふっ。などと思っていたら、医者が急に胸をぐいぐい押してきた。管を体に入れようとしているのか!?痛い!これは痛い!医者は全体重をかけて押してくる!「い、痛いです…」 そう言ってみたが、医者は聞く耳無しっ!!痛かったら痛いって言ってねって言ったやんかっ!!管が入るごとに激痛が走った…
 そんなこんなでやっと管が入り、息苦しくは無くなったが、胸が痛い。たまらなく痛い。俺は一晩中呻いていた。

 朝、俺はまた病院を移ることになった。今の病院は家から遠いから、何かと不便だからだ。
 近くのM病院に移されたはいいが、一向に良くならない。相変わらず肺から空気が漏れつづけている。そんな俺に、主治医のI先生はこう言った。「前の病院での管の入れ方が悪かったみたいやな。入れなおすか。」 そ、そんな…じゃ、じゃあ昨日の痛みは一体なんだったのだ?何のためにがんばったのだ…?人生は理不尽の連続だ。そう思いながら俺は2度目の管入れに臨んだ…

 10日後、やっと治り、俺は退院することになった。しかし、気胸という病気は一度なったら再発する可能性が大いにあるという。心配だ…

――この時から俺の気胸人生が始まった。まだこの時の俺は、気胸の本当の恐怖を知らない…本当の恐怖を……――

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